インドネシアで芸術を学ぶ魅力とは?--トビタテ!留学経験者インタビュー Vol.1 後編

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インドネシアで直接現地の工房に行き、伝統的な染色技術「バティック」を学んだ山本愛子さん。日本ではなく、あえてインドネシアで染色を学ぶことの意義は何だろう…。後編であるこの記事では、トビタテ!留学経験者である山本さんの染色を学ぶ上での苦労や、インドネシアならではの困難、さらには留学経験を踏まえての今後の目標についてお伝えします。インドネシアでの生活全般については、前編の記事をご覧ください。

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前編はこちら
インドネシアで本場の染色技術を学ぶ!-- トビタテ!留学経験者インタビュー Vol.1 前編

今回インタビューしたトビタテ生

帰国後、故郷の横浜でインドネシア滞在報告会をした。(場所:BankART1929)

(↑インドネシア滞在報告会の様子 BankARTstudioNYK Pubスペースにて)

山本愛子さん

トビタテ※の留学プログラムで、インドネシアへ染色技術「バティック」を学びに行った、東京藝術大学修士2年の山本愛子さんにインタビューしてきました!

※トビタテ=トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム。官民協働の留学支援制度で、返済不要の奨学金が給付される。

周囲の人々の態度に対する戸惑い

インドネシア留学で滞在していた近くの海岸

(↑滞在先からバイクで一本道を走ると海岸がある)

ーー 最初はインドネシア語ができなくて言語の面で少し苦労されたとおっしゃっていましたが、言語以外の面で苦労されたことはありましたか?

作品を作るときの環境に一番苦労しましたね。すごくオープンな環境だったんです。日本の制作場所だと集中するために仕切りがあったりとか、部屋で一人で作業したりするので、自分はそういう環境でずっとやってたんですけど、インドネシアでは、大部屋で何人もが制作していました。その日来て、座った場所が作業場、みたいな。

私が描いてるのにすぐ近くの距離で座って見てくる人とかいて、集中が難しかった。距離が近くて、でもそれが現地の人にとっては当たり前で、その中でどう集中するかは課題でした。集中してるときに、いきなりご飯もってきたり(笑)。話しかけてくれる嬉しさと、作品が進まない焦りが混ざって変な感情になっていました。

ーー 距離が近いということは、工房はそんなに広くなかったんですか?

普通に広かったんですよ!ただ、インドネシアの人は、集団行動が当たり前みたいなところがあって、観光を一人でしてても絶対誰かついてくるし、一人で行動してる人はあまりいない印象です。どっか一人で行くってなると絶対誰か一緒に行くって言ってきて。

ーー もともとそういう文化があるんですね。

はい。あと、ヒンドゥー教の友達と3人で夜に話していたときに、4人にしたほうがいいって言われて。奇数だと1人あまって、霊が寄り付きやすいと言われたことがありました(笑)。文化の違いで、コミュニケーションの感覚はこうも違うんだなと感じました。人と人のつながりや距離感が近い。

ーー そのような日本と違う環境だと、慣れるのが大変ですよね。慣れるまでどれくらいかかりましたか?

ある時みんなが周りに来るのがつらくなってしまった時期があり、個室に自分の作品を移動して鍵閉めてやってたんです。そしたらみんなが心配しちゃって、「大丈夫??」って覗き見てて。そんなときにスタジオのボスの人が来て、

「愛子、そっちの方が集中できるのはわかるんだけど、それだと日本と同じ環境じゃん。一人で集中していい作品が出来上がるのだとしても、完成するまでのプロセスの方が僕は大事だと思う。ここにいるからできるプロセスがあって、たとえ失敗したとしても、ここのやり方でチャレンジした方がいいと思うよ。」

って言われて。もう半強制的に荷物とか全部戻して、またやり直しました。その時に「はっ!」って気付いて、そのあとは結構慣れていきましたね。

ーー 厳しい中にも思いやりのある言葉ですね。その方は工房の職人さんですか?

職人さんとはまた違って、アーティストとして活躍している人。その人と共同で使っていたスタジオでの出来事です。

ーー それで新しい方法でやってみて、今までとは違うやり方の中で何か新たに気付いたことってありますか?

作品を作ってて毎日「これは何なの?」「何でこういう風にしたの?」って周りの人から聞かれて、自分も何でかな?って答えを探すようになって。自問自答じゃなくて、人から見てどう思うかっていう視点を作るときにも持つっていうのは初めてだったので、完成した作品も今までと結構違う風になってました。

ーー そうなんですね!留学ならではの、有意義な経験ですね。

バティック工房で藍染をしているところ

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留学生活、人生を変えたギャラリストとの出会い

インドネシアにあるRumah Kijang Mizuma

(↑Rumah Kijang Mizuma)

ーー 偶然レストランで会った日本人や工房の人など、ここまでいくつか人との関わりについてお聞きしましたが、他に記憶に残ってる人との出会いはありますか?

日本人のギャラリスト(ギャラリーを管理する人)である三潴末雄さんに、偶然現地でお会いしました。ミヅマアートギャラリーという、アート業界ではとても有名なギャラリーを運営している方です。私、ミヅマアートギャラリーの作家さん達の作品が大好きで。というか、この作品すごいなぁと思って調べたらこのギャラリーの人の作品だった、ということが多々あって。

ーー ご自身が好きだった、まさにそのギャラリストに会えたんですか??

そうなんです!街がアートイベントの時期があり、お酒を飲んでいたときに。まだ到着して3日目くらいだったんですけど、まさかその方だとは気づかずに話していたら、実はその自分が大好きなギャラリーの人でした!

そして、三潴さんが運営している「Rumah Kijang Mizuma(通称 キジャンミヅマ)」というスタジオで、滞在制作をしてもいいと言ってくださったんです。突然のことでした。留学3日目に出会ったその方のおかげで、私のインドネシアでの拠点が決まりました。本当に予期せぬ、人生を変えるような出会いでしたね。

ーー ということは、逆にそれまで滞在する場所は決まっていなかったんですか?

はい。トビタテの方で滞在先を指定されることは全くなくて、自分が継続的に関わる受け入れ先機関が決まっていれば、スケジュールや宿泊などは自由がききました。だから最初は現地で適当にアパートとか探そうかなと思っていたんです。

そしたら、予期せぬ出会いのおかげで、有難いことに広いスペースで作品も作れて、寝泊まりしていいって言ってくださって。

ーー もしそこでその方に出会っていなかったら…?

どうなっていたか想像もつきません!出会う人も、環境も、何もかもがらっと変わっていたと思います。キジャンミヅマにいたおかげで、インドネシアのアーティストやアート関係者の方との交流ができ、日々刺激的でした。

あと、同じ時期に滞在制作をしていた山本竜基さんという画家さんにとてもお世話になり、たくさんの影響を受けましたね。他にも、名をあげたらきりがないくらい多くの出会いに恵まれました。

そんな感じで、キジャンミヅマと、街のバティック工房を行き来して、バティックの勉強をしながらもスタジオで作品を作るという生活が定着し、おかげさまで本当に充実した日々になりました。

留学生活全体を振り返って

完成した作品の前で行われたお別れ会の様子

(↑完成した自分の作品の前で、お別れ会をしてもらった)

ーー トビタテでは留学前に事前計画を立てますよね。その事前計画の実行度と、留学の満足度を教えてください。

計画実行度は30点、留学満足度は120点です。染物に対する興味とか、横浜のアートスペース「BankARTstudioNYK」にお世話になったから帰ってきたら横浜で何かをしたいという想いとか、留学全体の大まかな軸はぶれてないんです。でも、人との出会いで日々予定が変動したり、ビザ問題でシンガポールに行くことになったりとか…具体的なスケジュールはいい意味でも全然機能していなかったですね。

ーー 留学での経験を踏まえて、今後の山本さんの目標をお聞かせください。

今、いろいろな方の協力のもと、インドネシアのバティックに関するプロジェクトを横浜で行う計画をしています。私が現地でお世話になっていた、あの日本語が少し話せる工房の人が、日本のことが大好きで日本に来るのが夢だけど、物価は高いし大変だって現地で言ってたなって思い出して、彼を日本につれてきてあげたいって思ったんです。

彼にとってもいい機会だし、自分が学んできた染物をお世話になってきた横浜で授業ができるというのはすごく嬉しいことだし。お互いのやりたいことが重なって今は動けてるから、それに向けていろいろ準備をしてます。

ーー 最後に、これからトビタテに応募したいと考えている人、また留学を考えている学生達へメッセージをお願いします。

ぜひトライしてほしいと思います。語学力がないからとか、まだ当てがないからとか、そういう理由で諦めなくていいと思います。私も本当に最初は何もない状態で、Google翻訳使ってメール30通くらい打ったのにそのうち20個は使われてないアドレスだったりとかして(笑)。

そういう不器用なことから始めても何とかなったので、やろうと思えば誰でもできるから、ぜひトライしてください。日本じゃない場所でゼロからなにかをやるのはすごく大事なことなので、ぜひやってほしいと思います。

あと、日本にいたときはずっと向こうに住みたいと思ってたんですけど、帰ってきてからは、「日本ってすごいなあ、何て国なんだろう、当たり前だと思ってたことが本当はすごいことだったんだ」と感じて、卒業しても今はもっと日本について知りたいと思いも強くなっています。

インドネシアで染色を勉強したけど、実は日本にも優れた技術はたくさんあって、地方にも自分がまだ見たことのないものがたくさんあるというのに日本から出て気付いたから、今はもっと日本について勉強したいです。それも海外に出て客観的に見てみないとわからないことだから、日本を見つめなおすという意味でも留学はとてもいいと思います。

ーー 貴重なお話、ありがとうございました!

インタビューを終えて

山本さんのお話の中で最も印象に残ったのは、やはり「人との出会い」です。誰とどこでどう出会うかなんて誰も予想できないのに、その人が自分の人生を変えるほどの大きな力を持っていたりします。今回の山本さんのお話からも明らかでしょう。

そんな「人との出会い」は、留学の醍醐味です。日本にいるだけでは絶対に出会うことのできない世界各地のたくさんの人と出会うことができます。勇気を出して一歩留学に踏み出してみることで、新たな人生が見えてくるかもしれませんよ!読者の皆さんには、諦めずにぜひ留学にトライしてほしいと思います。

インタビュアー

山本和香奈(やまもとわかな)/ 早稲田大学3年 / アブログインターン生

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THE RYUGAKU [ザ・留学] 編集部です。留学コニュニティサイト『アブログ』も運営しています。

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