今年アメリカで最も売れた本は?バーンズ&ノーブルのベストセラー10位

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Marco

紙の本が売れないといわれて久しいですが、アメリカでは年間約30万冊の本が発行されています。新刊の発行点数は、人口1万人に対して9.6冊。日本では1万人に6.1冊なので、人口当たりの新刊発行点数はアメリカの方が多いのです(※註1)。そんなこの国で、今年最も売れた本はなんだったのでしょうか。書店最王手のバーンズ&ノーブルのベストセラーランキング(※註2)をご紹介します。

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1位 Go Set a Watchman

Go Set a Watchman
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アラバマ物語』(原題:To Kill a Mockingbird)の作者、ハーパー・リー(Harper Lee)による長編小説です。『アラバマ物語』といえば、アメリカ南部にいまだ根強く残っている人種問題をアラバマ出身の著者が繊細に著した名作で、1961年にピューリッツァー賞を受賞しました。南部の学校では授業に使われているほどです。瞬く間にベストセラーとなりグレゴリー・ペック主演で映画化もされましたが、当時わずか34歳でデビュー作が爆発的ヒットをしてしまったリーが、それ以降新作を発表することはありませんでした。

それから55年の沈黙を破り、ついに発刊されたのがこの『Go Set a Watchman』です。しかも『アラバマ物語』の続編ですから、これで話題にならないはずがありません。作者は今年89歳という高齢で、世間の多大なる注目を浴びての出版はさぞかし大変だったのでは……と一市民は考えてしまいます。しかし作者が読者の期待を裏切ることはなく、「ハーパー・リー独特の筆致は健在」「前作より深みが増している」と各誌で絶賛されました。

2位 Grey: Fifty Shades of Grey as Told by Christian

Grey: Fifty Shades of Grey as Told by Christian
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続いては、ライトノベル調のあらすじが大人に受けた『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(原題:Fifty Shades of Grey)のシリーズ第4作目です。シアトルにある大企業のCEO、クリスチャン・グレイに大学生のアナが見初められて……という官能小説。全世界で累計1億部を超える大ベストセラーになり、今年映画化もされました。

Grey: Fifty Shades of Grey as told by Christian』は今まではアナの視点で物語が進んだのに対し、本作はグレイの視点で描かれています。「グレイの感情表現があまりに単純で繊細さに欠ける。グレイの魅力も半減」「グレイがあまりに支配的でアナを子ども扱いしているので、まったく共感できない」「冗長で飽きあき」などと評価はあまり芳しくないようですが、それでもこれだけ売れたので、今後も手を変え品を変え新作が出されることでしょう。

3位 Secret Garden: An Inky Treasure Hunt and Coloring Book

Secret Garden: An Inky Treasure Hunt and Coloring Book
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日本未上陸!おみやげにもなるコストコお勧め商品7選』でもご紹介した、大人のぬり絵ブームのさきがけともいえる『Secret Garden』の改良版。オリジナルが全世界で200万部を突破した後、読者の声を反映して紙質を厚く・インクをにじみにくくバージョンアップさせたとのこと。そう言われたら、既に買ったファンももう1冊欲しくなるのかもしれません。

さらにタイトルに「Treasure Hunt」と冠されているように、絵の中に生き物たちが隠されています。絵さがしをしながら細かく美しい線画に色を重ねていると、絵の中に入り込んでしまうような深い充足感を得られます。

ちなみにシアトルには、その名も「Secret Gargen BOOKS」という素敵な独立系本屋さんがあり、本書を大きく取り扱っています。

4位 The Girl on the Train

The Girl on the Train
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The Girl on the Train』は、ロンドン在住の作家ポーラ・ホーキンス(Paula Hawkins)による初のサスペンス小説です。小説を書く前は15年間経済記者を務め、経済書も執筆していたという著者。幼い頃からアガサ・クリスティなどの推理小説に親しみ、経済記者の傍ら公私問わず小説を書いていたそうです。

ロンドンを舞台にしたサスペンスで、レイチェル、ミーガン、アナという3人の登場人物による複数語りで話が進みます。「2013年7月5日金曜日、朝」などと克明に日時が記され、かと思うと次の章では時間も場所も語り手もガラリと変わるので、シチュエーションの変化に揺さぶられ、ハラハラの連続です。

アルコール・薬物中毒、DV、という重たいテーマをリアルに描写しており、テーマの類似性から『ゴーン・ガール(原題:Gone Girl)』とよく比較されます。これに対し、ホーキンスは「私もゴーン・ガールの大ファンよ。でも、ゴーン・ガールが家庭崩壊の真っ只中を描いている一方で、私の本はその後のどうしようもなくなってしまった状態を扱っているから、まったく別物だと思うの」と語っています。

既にドリーム・ワークスから映画化のオファーも来ているとか。公開が楽しみですね。

5位 All the Light We Cannot See

All the Light We Cannot See
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All the Light We Cannot See』の舞台は第二次世界大戦のフランスとドイツ。盲目のフランス人少女マリー・ロール(Marie-Laure)と孤児のドイツ人少年ヴェルナー(Werner)の人生が不思議に交錯する、童話のように美しくも切ない歴史小説です。「第二次世界大戦の恐ろしさを背景に、人間の本性と、それに対立する科学技術の力を見事に探求している」と評価され、本年度のピューリッツァー賞を受賞しました。

12歳のマリー・ロールは、住んでいたパリがナチスに占領されたので父親と一緒にフランス北西の町サン・マロ(Saint-Malo)へ非難します。一方ドイツの炭鉱の町に妹と住んでいたヴェルナーは、機械技師に憧れてヒトラー・ユーゲント(青少年強化組織)へ。そして、既にドイツの占領地となっていたサン・マロへ赴き…というストーリー。暴力や死を扱うシーンもありますが、戦争小説というよりもマリー・ロールとヴェルナーの人生に圧倒され、生きるってなんだろう…と考えさせられる人間ドラマです。

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6位 Enchanted Forest: An Inky Quest & Coloring Book

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Enchanted Forest: An Inky Quest & Coloring Book』は、3位『Secret Garden』に続くシリーズ第2作。こちらにも絵さがし要素があり、そして絵が迷路にもなっていて楽しめます。

今回のベスト10には入っていませんが、今年10月下旬にはシリーズ第3作の『LOST OCEAN』も発売され、乗りに乗っているこのシリーズ。ここまで売れるとちゃっかり便乗したパクリ本も多く、こんな露骨にそっくりな本まで出ていました。

7位 Harry Potter and the Sorcerer's Stone: The Illustrated Edition

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7位は、「まだ出るか」と驚いてしまうハリー・ポッターです。第1作『賢者の石』のイラスト版。60年の歴史を持つ絵本のイラスト賞Kate Greenaway Medalを受賞したジム・ケイ(Jim Kay)が、100枚以上の作品を寄せています。

映画のためにすっかりビジュアルイメージが固まってしまったハリーたちですが、ジム・ケイのファンタジックなイラストは物語に新たな魅力を加えています。イラスト版というと子ども向けの易しい本かとも思ってしまいますが、往年のファンも満足できそうです。ジム・ケイのウェブサイトでイラストの一部を見ることができます。

8位 What Pet Should I Get?

What Pet Should I Get?
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作者のドクター・スース(Dr. Seuss)は、アメリカでは知らない人がいないというくらいの大御所絵本作家なのですが、日本語の翻訳はほとんどありません。韻を踏んでいる英語が訳しにくかったり、ちょっぴりブラックユーモアがきいた作風が受けなかったりするのでしょうか。

それはともかく、1991年に亡くなるまで40年以上一線で活躍していた作家の、未発表の作品がこの『What Pet Should I Get?』です。亡くなる際、作家は「数十年後まで見つからないように」とたくさんの原稿を箱の中に保管していました。それら、まさにお宝の中から発掘されたのが本作。

アメリカではペットを飼っている家庭が非常に多いので、「最高のペットを見つける」というのは子どもたちにとってとても身近なライフイベントのようです。「1匹だけなんて決められない。ペットショップにいる子たちぜーんぶ連れて帰りたい!」と悩む子どもの様子がほほえましい絵本です。

9位 Old School (Diary of a Wimpy Kid Series #10)

Old School (Diary of a Wimpy Kid Series #10)
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Old School (Diary of a Wimpy Kid Series #10)』もアメリカでは定番の子ども向け小説、「Diary of a Wimpy Kid」シリーズです。中学生の日常をリアルにつづっていて、どこにでもいそうな主人公(イメージは、ひねくれたのびた君?)につい感情移入し、吹き出してしまいます。さらさら読みやすく、最初はネットで火がついたというのもうなずけます。日本語では『グレッグのダメ日記』という救いようのないタイトルがつけられていますが、それも仕方ないかな…と思うほどにダメな主人公の、笑える物語です。

作者のジェフ・キニー(Jeff Kinney)はマサチューセッツ州で「An Unlikely Story」という書店も営んでおり、ベストセラー作家としてはユニークな人です。そのお店のベストセラー絵本は?やはり、この『Old School』でした。

10位 The Life-Changing Magic of Tidying Up: The Japanese Art of Decluttering and Organizing

The Life-Changing Magic of Tidying Up: The Japanese Art of Decluttering and Organizing
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さぁ最後は、ご存じ“こんまり”こと近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』、英訳版です。日本人作家の本がこんなに読まれているとは、なんだか嬉しいですね。近藤さんは『TIME』誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、本作品を含むシリーズは累計300万部を突破したそうです。

メインタイトルのtidying upが「片づけ」にあたる表現ですが、サブタイトルのdeclutteringにも「片づけ」の意味があります。tidy upは「きちんとした状態に整える」というニュアンスで、元々そんなに汚くない所をより完璧にする時などに使うイメージ。一方declutterは「散らかった状態を正す」というニュアンスで、ごちゃごちゃあふれた物をしまうイメージ。tidy upの方がスマートな印象です。もしタイトルが『The Life-Changing Magic of Decluttering』だったら、こんなに売れなかったかも…。というのは単なる憶測ですが。

そしてサブタイトルに「Japanese Art」と付けることにより、禅やら東洋哲学的やらの何か神秘的な印象が生まれ、アメリカのミニマリストたちに受けたのではないでしょうか。

最後に

以上、バーンズ&ノーブルの年間ベストセラー10位をご紹介しました。

驚くのは、本格的な長編小説が4冊もランクインしていること(一応『Grey』も勘定に入れています)。日本では『火花』が純文学としては異例のヒットを記録し、年間1位となりましたが、これがベストセラー10位に唯一ランクインした小説です(※註3)。また、子ども向けの本が2冊ランクインしているのも喜ばしいことです。未来の読者が確実に育っているということですから。「老い」や「健康」本が売れている日本の出版業界は、高齢層に支えられている印象が否めません。

一方、アメリカでは続編やシリーズ作が好まれているのに対し、日本では次々と新しいテーマが誕生します。なんだか国民性を反映しているようです。来年はどんな本が読まれていくのでしょう、楽しみですね。

※註1
約30万冊は、新刊+増刷の点数。2013年、Publishing Technology調べ。http://www.publishingtechnology.com/2014/10/ipa-report-says-global-publishing-productivity-is-up-but-growth-is-down/

※註2
2015年12月18日現在。http://www.barnesandnoble.com/b/the-top-100-bestsellers-of-the-year/_/N-1p4d

※註3
トーハン調べ。http://www.tohan.jp/bestsellers/2015_3.html

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この記事を書いた人

美紗子
美紗子

日本の大学で英語学を学びながら、語学留学でロンドン、国際インターンシップでドネツク(ウクライナ)へ。その他旅に明け暮れて、次第に旅するように暮らしたいと思うように。大学卒業後は日本の出版社に5年半勤め、現在は配偶者とシアトル在住。

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