ケーキもサンタもなし!?カトリック教徒のクリスマス

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Jeff Weese

アメリカは11月末のサンクスギビングまでカボチャの装飾でオレンジ色に染まっていますが、それが過ぎるとクリスマス色に一変します。軽快なクリスマスソングが流れ、真っ赤な衣装のサンタクロースが笑顔をふりまき、人々は悩みながらも楽しそうにプレゼントを吟味する……。そんなクリスマスの情景、実は後世に作り出されたもので、伝統的なキリスト教のクリスマスとは趣が異なります。では、キリスト教徒たちはクリスマスをどのようにお祝いしているのでしょうか?宗派や国によって様々ですが、アメリカのカトリックを例にざっとご紹介します。

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約1ヶ月前から準備開始。元々は断食の期間

クリスマス(日本語では降誕祭)は、4つ前の日曜日から準備が始まります。今年(2015年)は11月29日から始まりました。この準備期間は「Advent(待降節)」と呼ばれ、クリスマス当日よりも重要視されています。日本でも浸透しているアドベントカレンダーの「アドベント」ですね。

この約1ヶ月、アドベントカレンダーに隠されたチョコレートを1つずつ食べるお楽しみ時間だと筆者は思っていたのですがとんだ間違いで、イエス・キリストの誕生を待ちながら節制に努める期間だそうです。

今から1500年ほど前には週3回の断食を命じられていたくらいで、今でも敬虔な信者の中には「アドベントの金曜はお肉を食べない」「アドベントは断酒する」という人がいます。「クリスマス直前なので、イブの夜はお肉を食べない」という家庭もあるそうで、イブにご馳走を食べるのが通例の日本とはずいぶん習慣が違います。

紫色が主役

紫色が主役
Christine McIntosh

クリスマスに使用する色といえば緑と赤、それに金と白、という組み合わせが真っ先に思い浮かぶのではないでしょうか。ところがその4色が登場するのはクリスマス当日だけで、それまで教会では紫色が使われます。ですからアドベントの聖堂は、町の装飾と比べればかなり慎ましく見えます。

紫は、カトリックでは「節制、回心、悲しみ」を表す色。ですから節制して過ごすアドベントで使用されるのですね。昔は紫色の染料が高価だったこともあり、非常に高貴な色として認識されていました。ちなみに中国では禁色として天帝以外が着用することが禁じられていましたし、日本でも冠位十二階でもっとも高位とされたのは紫色でしたよね。世界中で紫色が尊ばれてきたという事実に、興味深いものを感じます。

ただ、1日だけ例外があります。「喜びの日曜日」といわれる3回目の日曜日(待降節第3主日)です。今年は12月13日でした。クリスマスが近いことを喜ぶために、この日だけは「Advent candle」と呼ばれるろうそく、そして司祭様の祭服がピンク色に変わります。ピンク色をまとってミサに参加する人もいます。

ちなみにアドベントキャンドルは、紫が3本、ピンクが1本、白が1本の計5本から成り、毎週日曜日に火を灯していきます。1・2回目の日曜日は紫、3回目はピンク、4回目はまた紫に戻って、5本目の白色はクリスマス当日に火を灯します。

12月8日は聖母マリアの日

アドベント中は、12月8日という日も大切な意味を持ちます。キリストの母マリアが、その母聖アンナの胎内に宿ったことを記念する「Feast of the Immaculate Conception(無原罪の聖マリアの祝日)」です。聖母マリアの誕生日は9月8日。そこから9ヶ月さかのぼって12月8日というわけです。

「そんな、キリストのおばあちゃんの子宮内で受精卵が着床した日を祝うなんて」と信者でない筆者はのけぞりましたが、聖母マリアの誕生にはここでは語りつくせぬほど神秘的な意味が込められているそうでして、そんな世俗的発想はされないそうです。ともかく、前教皇ベネディクト16世が「聖母の最も美しい祝日の一つ」と仰ったくらいの大切な日です。

信仰の篤いスペインやイタリアと違ってアメリカでは祝日にならず、せいぜいカトリック系の学校がお休みになるくらいですが、この日行われるミサには皆必ずといっていいほど参加します。今年は火曜日でしたので、仕事帰りに寄れる夜のミサに来ている人が多かったようです。私も参加しましたが、普段の日曜のミサと比べて3倍くらいの人が集まり、教会はすし詰め状態でした。

ところで12月8日は、日本軍がアメリカ軍に真珠湾攻撃を仕掛けた日でもあります。ミサでは白人の神父様が「この悲しい日を忘れてはならない」と話されて、日本人の私は少々気まずい思いをしました。

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サンタが来ないクリスマス当日

サンタが来ないクリスマス当日
St. Anne Church and Shrine

さあ、4回目の日曜日も過ぎ、いよいよクリスマスがやってきます。一番大切な行事は、やはりミサ。イブの夜に行われるミサ、イブ深夜からクリスマス当日に掛けてのMidnight Mass、クリスマスの午前中に行われるミサ、この3つのうちひとつに参加します。

教会は落ち着いた紫色から一転、「神の栄光、喜び、清らかさ」を表す白色に埋め尽くされ、お祝いムードでいっぱいになります。大人はかっちり着飾り、子どもたちも目いっぱいのおめかしをしてミサに集まります。

ミサの後には簡単なパーティが催され、持ち寄った食事やお菓子を食べながらわいわいお祝い。特別なご馳走はなく手作りの素朴な食べ物ばかりですが、皆一堂に会して喜びを共有するのはなんとも心温まる一時です。「今年も無事に過ごせてよかった」とか「アドベント中に節制していた分、お祝いはいいものだ」とか、人それぞれ様々でしょうが、クリスマスにしか味わえないほこほこした感情を胸に抱えながら、家路に着きます。

以上、です。というと「え?ケーキは?サンタクロースは?プレゼント交換もないの?!」と思ってしまうかもしれませんが、カトリックにとってはミサが全てで、教会の中に豪華なホールケーキや真っ赤な服のサンタという習慣が入り込んでくることはありません。

そもそもサンタのかぶっている赤いとんがり帽子というのは昔から悪魔のイメージとして民衆に定着しており、カトリックが起源ではないのです。『サンタとコカ・コーラの意外な関係?サンタ誕生秘話とコカコーラ美術館』の記事でも紹介されているように、アメリカの商業主義が後から作り出したイメージです。

またプレゼント交換に関しても、今では大人同士贈りあう習慣もありますが、昔は子どもだけに贈り物をしていたそうです。教会では現在も、「子どもたちのためにプレゼントを持ち寄ってください。代わりに、お子さんのいる家庭はプレゼントを取っていってくださいね」とアナウンスされ、ツリーの下にプレゼントが集められています。「おむつや子ども服の寄付をお願いします」なんて教会もあります。下の写真のように、限りなく枯れ枝に近い質素なツリーの下に、プレゼントが集められています。

限りなく枯れ枝に近い質素なツリーの下に集まるプレゼント

ただし、家庭にはサンタクロースがやってきます。特に真っ赤な服のサンタが生まれたここアメリカでは。カトリックであろうとなかろうと、子どもたちがプレゼントに群がって包みを開ける瞬間がクリスマスのクライマックスです。

クリスマスケーキは食べません

クリスマスケーキは食べません
Meal Makeover Moms

クリスマスといえば、この期間にしか食べられないお菓子も楽しみのひとつです。教徒たちは「Christmas cookie」と呼ばれるクッキー(そのままの名称ですが)を焼いて、前もってツリーに飾ったり持ち寄ってミサの後に食べたりします。

家庭ではパイを焼いたりする人もいるようですが、日本のように「何が何でもホールのデコレーションケーキを食べる」ということはありません。カトリックにとってクリスマス=ご馳走をたらふく食べる日ではありませんし、アメリカの文化に照らし合わせてみても、「クリスマスだからケーキを食べよう」と盛り上がることはない気がします。アメリカでは年がら年中、ぎょっとするような特大ホールケーキがスーパーマーケットの一角に鎮座していますから。

ところでアメリカにはこれといったクリスマスの定番菓子がないので、味気なく感じます。フランスにはブッシュ・ド・ノエル、ドイツにはシュトーレン、イタリアにはパネトーネ、と必ずお定まりがあるのに。ちなみにこの3つとも、お菓子屋さんやパン屋さん、スーパーなどで目にするのでアメリカでもよく食べられているようです。

アメリカ出身のトルーマン・カポーティの短編『クリスマスの思い出』には、クリスマスに向けて「サクランボとシトロンとジンジャーとバニラとハワイ産パイナップルの缶詰と果物の皮とレイズンとクルミとウィスキーと、そう、それからひっくりかえるくらい沢山の小麦粉とバターと、山ほどの卵と各種香料に調味料」を使って知人のためにどっさりケーキを作るシーンが出てきますが、これもどうもパネトーネのように思われます。

ジンジャーブレッドもエッグノッグ(卵、牛乳、生クリーム、砂糖、ナツメグやシナモンなどのスパイス、それにラムやワインからなる甘ったるい飲み物)も来歴はヨーロッパだそうですし、強いてアメリカンなクリスマス菓子といえば、赤と緑の合成着色料がふんだんに使われたカップケーキでしょうか。たまにアメリカ人が「僕らの歴史は浅いから」と自嘲気味に言いますが、それは食べ物にも表れているようです。

最後に

以上、ざっとどころか、ざざざっと大まかにカトリックのクリスマスについてご紹介しました。カトリック、そしてクリスマスの文化史に関しては数え切れないほど本が出ていますので、詳しく知りたい方はご覧になってみてください。

私自身は信者ではなく夫の影響で数年前から教会に通い始めたばかりですが、知れば知るほど宗教の世界は面白いです。クリスマスについてもずいぶん知識不足や誤解があり、その驚きを皆さんと共有させていただけたらと思って書き記した次第です。

ちなみに『クリスマスの思い出』の一節はこちらの本から引用させていただきました。クリスマス前に読み返したくなる、美しくてちょっと切ないお話です。それでは皆さん、どうぞよいクリスマスを。

<参考URL>
カトリック中央協議会「待降節とクリスマス(降誕祭)」
カトリック河原町教会「カトリックまめ知識」

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この記事を書いた人

美紗子
美紗子

日本の大学で英語学を学びながら、語学留学でロンドン、国際インターンシップでドネツク(ウクライナ)へ。その他旅に明け暮れて、次第に旅するように暮らしたいと思うように。大学卒業後は日本の出版社に5年半勤め、現在は配偶者とシアトル在住。

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