愛する妻のために建てた美術館!ユニリーバの理想郷とレディ・リーヴァー美術館の素敵な話

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Richard Ash

昔、私は英国にて美術品を扱う仕事に従事していました。ある日、仕事で一つの美術館に足を運ぶことになったのですが、あのDoveやLUXで有名なユニリーバ創立者が、愛する奥様の為に建てた美術館だったのです。今回は、英国のリバプールの郊外にある「レディ・リーヴァー美術館」とユニリーバの創立者である「ウィリアム・ヘスケス・リーヴァー」の素敵な話を紹介します。

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すべては一個の石鹸から始まった

雑貨卸店「リーバ&カンパニー」を営んでいた英国人のウィリアム・ヘスケス・リーヴァーは、新しい箱入りの家庭用石けんのビジネスを開始しました。そこには「この石鹸を使う人の誰もが清潔な暮らしを送れるように。健やかで美しく、充実した暮らしを楽しめるように」という願いがあったのです。

それまで石鹸といえば、長い棒状で雑貨店に卸され、店頭で切り分け新聞紙に包んで顧客に売られていたそうです。さらに、ビクトリア時代のイギリスでは、さほど身体をきれいにするとか、家をきれいにするという習慣がなかったそうです。

会社名は「Lever Brothers (リーヴァー・ブラザーズ)」。その石鹸のブランド名は、人々に「きれいになる」「清潔な生活を営む」をキャッチフレーズに、曇り空が多い英国に新たな光を届けるという意味で「サンライト(日光)」と名づけられました。

「サンライト」という名の理想郷

ウィリアム・ヘスケス・リーヴァーが最初に手始めたのは、従業員のための理想郷をつくる事でした。安定した質の高い石鹸を作ってもらうためです。なんとリバプールの郊外に従業員らが生活する村の建設を1888年に開始したのです。村の名前は「ポート・サンライト」と名づけられました。

ポート・サンライト
Jorge Franganillo

( ↑ この建物がすべて従業員の宿舎でした)

社宅は、有名な建築家を呼んで作らせたそうです。社宅のみならず、教会、病院、学校、体育館、劇場、コンサートホール、託児所、郵便局なども揃わっています。休日には、ウィリアムは従業員全員を美術館などに連れて行くなどもしていたそうです。

当時の800軒以上の家屋のほとんどすべてが、現在は2級保存指定です。住宅は1980年まではユニリーヴァーの所有で、入居者は全て工場で働く従業員でした。その後、分譲や私有化が進み、今はほぼすべてが個人所有となってます。

労働者にとって理想の経営者だった

ウィリアム・ヘスケス・リーヴァーは、英国の企業家の中で「フィランソロピスト」と言われる人達の一人でした。「フィランソロピスト」は造語で、「フィランソロフィー (philanthropy)」とは、古ギリシャ語のフィロス(兄弟愛)とアントロポス(人類)がミックスした言葉で、「人類を兄弟愛で愛する」という意味です。

「フィランソロピスト」とは、1800年頃に始まった運動で、博愛主義者であり、企業家としてキリスト教に基づいた兄弟愛を伝道するために企業活動をする社会奉仕家です。まったく労働者にとっては理想の経営者だったのです。

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妻に捧げた美術館

1913年、彼の最愛の妻、エリザベスが亡くなりました。悲しみに明け暮れるウィリアムは妻の為に美術館を建設しました。世界的にも珍しい女性の名前の美術館です。それが「レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー」です。1922年に開館しました。

レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー
PROTim Dutton

( ↑本来、美術館として 館内に自然光(サンライト)が差し込む構造は邪道なのです。)

リバプール市内及び近郊の3つの美術館からなる、リバプール国立美術館(①ウォーカー・アート・ギャラリー、②レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー、③サドリー・ハウス)の一つで、入場料は無料です。

実はリバプール国立美術館は、ラファエル前派(※)の良品を所蔵する美術館として世界的にも有名です。レディ・リーヴァー美術館は、これらの絵画のみならず、数々のウェッジウッドのコレクションも展示しています。すべて愛する妻の為に収集されたものです。

※ラファエル前派
1848年に、ダンケ・ゲイブリエル・ロセッティとジョン・エヴァレット・ミレイとウィリアム・ホルマン・ハントの3人により結成された革新的グループです。巨匠ラファエロよりも以前の芸術精神に立ち帰ることを理想とし、それまでの古典的なアカデミー絵画を批判しました。

Lady Lever Art Galleryの情報

住所: Port Sunlight Village, Lower Rd, Wirral CH62 5EQ イギリス
電話: +44 151 478 4136
開館時間: 10am - 5pm(クリスマス・年末年始以外は毎日開館)
入場料: 無料
URL:http://www.liverpoolmuseums.org.uk/ladylever/
アクセス:リバプールのジェームズ・ストリート駅から電車(Wirral line) に乗ります。Hootonに向かう電車(マージー川を渡るライン)で「Bebington(ベビントン駅)」で下車します。約15分ほどです。

今も受け継がれるリーヴァー精神

ユニリーバの社名は、ウィリアム・ヘスケス・リーヴァー卿が始めた、石鹸会社「リーバ・ブラザーズ」とオランダのマーガリン会社「マーガリン・ユニ」を合わせた名前から由来しています。現在、ユニリーバは英国とオランダに本社を置いています。

レディ・リーヴァー美術館の開館の3年後、妻の後を追うようにしてウィリアムは深い眠りにつきました。1930年にオランダのマーガリン・ユニと合併したのち巨大企業となったユニリーバの企業理念は、ウィリアム・ヘスケス・リーヴァー亡き今も、受け継がれているようです。

まとめ

ダブ、ラックス、ポンズ、リプトン等でもお馴染みの、ユニリーバには、こんな素敵な物語があったのです。従業員のための理想郷を作り、愛する妻の為に美術館を建てる男の甲斐性。見習いたいものです。

英国にはテート・ブリテンを筆頭に、素晴らしい美術館がたくさんあります。渡英された際には、勉強の息抜きに、たまには美術鑑賞でもいかがでしょうか。是非、レディ・リーヴァー美術館にも足を運んでみてください。

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この記事を書いた人

ケン
ケン

日本の大学を卒業後に、フランス、イギリス、アメリカを渡り歩き、気がつけばセブで生活をしている50代半ばのオッサンです。酒とビリヤードを愛する男。セブでは、日本人よりフィリピン人のほうが友達は多いです。ちょい悪オヤジになりきれない、か弱いオヤジ。今までの経験を通して、私らしい情報発信ができれば幸いです。

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